孫研究室では、レーダ(Radar)、サーモグラフィ(Thermography)、RGBカメラ、光電脈波センサ(PPG)、圧電センサ(BCG)、心電計(ECG)、ToFセンサなどのリモートセンサを用いて非接触でバイタルサイン(心拍、呼吸、体温、血圧)を計測するための信号処理と画像処理および同技術を実装した医用システムの実用化研究を行っています。
 人体に触れずにバイタルサインを計測する技術の研究・開発がにわかに活発になっています。例えば、マイクロ波レーダを用いることにより、体表面上に生ずる呼吸と心拍に伴う微細な動きを捉えます。また、赤外線サーモグラフィを利用して、体表面から放出される赤外線を測定し、体温を非接触で計測することができます。非接触バイタルサイン計測の利点は、患者への負担が極力少なく、しかも無拘束・無意識などが挙げられます。
 当研究室では、このような非接触バイタルサインを計測する技術を活用し、「社会安全システム(感染症)」、「在宅ヘルスケア」、「高齢者見守り」、「睡眠モニタリング」、「心拍変動計測から自律神経機能活性度評価」、「動物健康モニタリング」分野に焦点を当て、医用機器を研究・開発します。このようなシステムを実用化するために、システム設計、ものづくり、生体情報処理、臨床評価まで行っています。


進行中の研究プロジェクト

1. 大規模な生体情報データ計測に基づくリアルタイム感染症サーベイランスシステムの研究開発

2. 脈波センサやレーダを用いた心拍数変動指標(Heart rate variability)計測から、自律神経機能活性度評価

3. 超高齢化社会に向けた在宅や福祉施設における健康モニタリングシステムの研究開発

4. 赤外線・RGB顔画像解析による非接触バイタルサイン計測


5. レーダやToFセンサを用いた非接触呼吸機能評価


[P-1] ToFセンサを用いた非接触呼吸機能評価



呼吸の異常は病気の初期兆候です。しかし、臨床現場において呼吸測定の機会は少なくなっています。この理由は、バイタルサインである体温や心拍等と比べて、呼吸の計測が容易ではないためです。
  本研究グループでは、簡易かつ迅速な呼吸計測のためにToFカメラを用いた呼吸機能の非接触計測システムを研究・開発します。ToFカメラは小型のデバイスで、撮像対象までの距離を算出できます。また、換気量と胸郭変動には相関関係があります。つまり、呼吸に応じて胸郭が微小な上下運動をするため、上述したToFカメラで胸部変位を観測することで、時間変化における呼吸運動を非接触でモニタリングすることができます。本システムではToFカメラから得た呼吸運動の時系列データを解析して、呼吸数を算出します。この呼吸数や呼吸波形の形状などを指標として、病気の診断を行います。


[P-2] 赤外線・RGB顔画像から非接触心拍と呼吸計測と感染症検出への応用

G. Sun, Y. Nakayama, S. Dagdanpurev, S. Abe, H. Nishimura, T. Kirimoto, T. Matsui Remote sensing of multiple vital signs using a CMOS camera-equipped infrared thermography system and its clinical application in rapidly screening patients with suspected infectious diseases.
International Journal of Infectious Diseases, 55, 113-117, 2017.

感染症の大流行に備えるためには、空港検疫において、高感度な感染症スクリーニングシステムの開発が必要とされています。現在、空港検疫では健康状態の自己申告とサーモグラフィによる体温検査が中心となっています。しかし、体温検査を基としたスクリーニングは、外気温や服薬や飲酒などの影響を受けやすいという問題点が指摘されています。そこで、感染症有症者の心拍数と呼吸 数を新たな計測項目として加えた高感度な感染症スクリーニングシステムが提案されています。
 本研究グループでは、CCDカメラとサーモグラフィを併用することで非接触に心拍・呼吸・体表面温度を計測し、高感度な感染症スクリーニングシステムを開発しています。高精度なシステムの実現のために、信号処理や画像処理の手法を適用することで計測精度向上に取り組んでいます。また、被測定者が健康か有症者かどうか判断するために機械学習を利用した研究も進めています。首都大学東京・松井岳巳研究室と共同で研究開発を行っています。


[P-3] マイクロ波ドップラーレーダを用いた健康モニタリングシステム
G. Sun, M. Okada, R. Nakamura, T. Matsuo, T. Kirimoto, Y. Hakozaki, T. Matsui
Twenty-Four-Hour Continuous and Remote Monitoring of Respiratory Rate Using a Medical Radar System for the Early Detection of Pneumonia in Symptomatic Elderly Bedridden Hospitalized Patients.
Clinical Case Reports, 7(1), 83-86, 2019.

ドップラーレーダから人体に影響のない電波を人の胸部に対して照射することで、呼吸や心拍による微細な体の動きを観測することができます。レーダで計測した呼吸や心拍による体の動きから、呼吸数と心拍数といったバイタルサインを算出します。体に計測機器を装着することなく、被使用者の負担がわずかであるため健康モニタリングシステム等への応用が期待されています。その例の1つは高齢者や入院患者のための見守りシステムです。ベッドの下にレーダを設置することで、被使用者は寝ているだけでバイタルサインを取得することができます。このため長期間での計測が可能となり、バイタルサインの時系列データを利用することで、使用者の健康状態の管理が容易となることが期待され、医療や介護の現場の負担を減らすことを目指します。もう1つは睡眠評価システムです。ベッドの下に設置したレーダで睡眠中の体の動きを計測することで、バイタルサインの取得だけでなく、無呼吸症候群の判断や睡眠の質の評価が可能となり、従来のウェアラブル端末やスマートフォンを用いる方法よりも詳細で正確なデータを掲示できることが期待されます。超高齢化社会を迎えた現在、我々はこのようなシステムの実用化に向けた研究を行っています。



[P-4] 精神負荷と呼吸統制時の心拍変動による精神疾患患者のスクリーニング法の開発 G. Sun, T. Shinba, T. Kirimoto, and T. Matsui
An Objective Screening Method for Major Depressive Disorder Using Logistic Regression Analysis of Heart Rate Variability Data Obtained in a Mental Task Paradigm.
Frontiers in Psychiatry, 7(180), 2016.

大うつ病をはじめとする精神疾患の診断における課題として、簡便に得られる客観的な生理指標がないことが挙げられます。これにより患者側は周囲の理解を十分に得られない場合や、自分の状態を適切に認識することができない場合があります。
 この問題に対し、客観的に自律神経活性度を評価する指標として、心電計や脈波センサ等で非侵襲かつ簡便に計測できる心拍変動があります。心拍の時間間隔は緊張時に優位となる交感神経と安静時に優位となる副交感神経の二重支配を受けており、感情や体の状態変化に反応して常に変動する性質を有しています。心拍変動に含まれる周波数成分から自律神経の活性度を計ることで、ストレスの評価を行うことができます。
  本研究グループでは、心拍変動を用いたうつ病スクリーニングシステムの実用化研究を行っています。軽い精神負荷課題や呼吸統制を含んだ短時間の心拍計測試験を行い、得られた心拍変動の評価指標から機械学習によってうつ病の傾向を検出します。自宅や職場、病院などの場所で、どなたでも扱える簡便な検査システムの実用化を目指し、病院と共同で評価を進めています。


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